酸化と還元の関係
上級編③では、基礎編で触れた「酸化」について、化学の基本である「酸化」と「還元」の関係から、もう一歩踏み込んで見ていきます。
酸化と還元は、いつもセット
化学の世界では、ある物質が電子を失うことを「酸化」、逆に電子を受け取ることを「還元」と呼びます。そして、酸化と還元は、常にペアで起こります。誰かが電子を失えば(酸化)、その電子は必ず誰かに渡り、受け取った側は還元されているのです。
肌の中で、電子を欲しがる存在
私たちの肌には、活性酸素やフリーラジカルと呼ばれる、不安定な物質が生まれることがあります。これらは、電子が1つ足りない状態にあり、安定するために、周りの物質から電子を奪おうとします。肌のコラーゲンなど、本来は酸化されてほしくないものから電子が奪われてしまうと、それらが酸化され、傷んでしまいます。
アスコルビン酸が「身代わり」になる
ここで、アスコルビン酸(ビタミンC)の出番です。アスコルビン酸は、電子を比較的手放しやすい性質を持っています。フリーラジカルが電子を奪おうとしたとき、アスコルビン酸が周りの物質より先に電子を差し出すことで、コラーゲンなど他の大切なものが酸化されるのを防ぎます。電子を渡したアスコルビン酸自身は、酸化されて、デヒドロアスコルビン酸という別の形に変化します。
これが、ビタミンCの「抗酸化作用」と呼ばれるものの、基本的な仕組みです。
皮脂の酸化も、同じ仕組みで起きている
ここまで見てきた「酸化と還元」は、アスコルビン酸に限った話ではありません。肌の表面にある皮脂も、同じ仕組みで酸化します。
皮脂に多く含まれるスクワレンという成分は、分子の中に二重結合を6つも持っており、非常に酸化されやすい性質を持っています。紫外線や活性酸素によって、この二重結合の隣にある水素が引き抜かれると、スクワレン自身がラジカル(不安定な状態)になります。このラジカルが酸素と結びついて過酸化物ラジカルになり、それが別のスクワレン分子から水素を奪う、という反応が連鎖的に繰り返されることで、スクワレンは次々と「過酸化スクワレン」に変化していきます。
これを酸化還元の言葉で整理すると、電子(水素)を奪われる側=酸化されるのがスクワレン(皮脂)、電子を受け取る側=還元されるのが酸素、という関係になります。アスコルビン酸がフリーラジカルの「身代わり」になって酸化される仕組みと、根っこの化学は同じです。
ビタミンEとビタミンC、酸化されやすいのはどちらか
抗酸化物質は、ビタミンCだけではありません。代表的なもう1つが、油になじみやすい性質を持つビタミンE(トコフェロール)です。ビタミンEも、ラジカルに電子(水素)を渡すことで、自らが身代わりになります。
ここで面白いのは、ビタミンCとビタミンEを比べると、ビタミンCの方が電子を手放しやすい=酸化されやすいという性質を持っていることです。この性質の違いがあるおかげで、ビタミンEが一度ラジカルに電子を渡して「ビタミンEラジカル」という不安定な状態になったとき、ビタミンCがさらに電子を1つ渡すことで、ビタミンEを元の働ける状態に戻す、ということが起こります。この時、電子を渡したビタミンC自身は酸化されます。
つまり、ビタミンCとビタミンEは、ただ個別に働いているのではなく、「ビタミンEが電子を渡して疲れたら、ビタミンCがその電子を補充する」という、リレーのような協調関係にあります。これも、酸化と還元が常にセットで起きるという、上級編③の冒頭で説明した原則の、もう1つの現れ方です。
「酸化しやすい」は、弱点であり武器でもある
基礎編では、「アスコルビン酸は酸化しやすいので、化粧品にするには工夫が必要」という、いわば弱点として説明しました。しかし上級編で分かるのは、その「酸化しやすい」という同じ性質こそが、肌を守る働きの源になっているということです。
化粧品としての保存中に、瓶の中で空気や光に反応して酸化してしまうと、肌に届く前に力を使い果たしてしまいます。だからこそ、基礎編・中級編で見てきたような、様々な安定化の工夫(リン酸で蓋をする、リポソームで包む等)によって、「肌に届くまでは酸化させず、肌に届いてから初めて、本来の反応をしてもらう」ことが、化粧品づくりの核心になっているのです。
酸化と還元は、電子のやり取りという意味でセットの現象である。アスコルビン酸が酸化されやすいのは弱点ではなく、フリーラジカルの身代わりになって肌を守る、抗酸化作用そのものの仕組みである。この仕組みは皮脂の酸化にも共通しており、またビタミンC・ビタミンEという異なる抗酸化物質どうしが、電子の受け渡しを通じて互いを補い合う関係にもなっている。安定化技術は、この反応を「無駄遣いさせず、肌の中でこそ発揮させる」ための工夫だといえる。