STEP3|上級編①

どこまで届くのか

中級編①では、ビタミンC誘導体が水溶性・油溶性・両親媒性の3タイプに分かれることを学びました。上級編①では、「では、それぞれ肌のどこまで届くのか」という、一歩踏み込んだ話をしていきます。

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肌という壁の構造

まず、肌全体の大まかな構造を確認しておきましょう。肌は、外側から「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層に大きく分かれます。表皮のさらに一番外側にあるのが「角質層」で、表皮の一番奥(真皮との境目)にあるのが「基底層」です。基底層では新しい細胞が作られ続けており、その細胞が徐々に押し上げられながら形を変え、最終的に角質層に達してはがれ落ちる、という新陳代謝(ターンオーバー)が行われています。

角質層 基底層 真皮 皮下組織 表皮
肌は表皮(角質層・基底層を含む)・真皮・皮下組織の3層構造になっている

このうち、外から異物が入り込むのを防ぐ「壁」として最も重要なのが、一番外側の角質層です。角質層は、水になじみやすい層と、油になじみやすい層が、サンドイッチのように何層にも重なってできています。

油層 水層 油層 水層 油層 肌の外側 肌の内側
角質層は、水の層(青)と油の層(茶)がサンドイッチ状に重なっている
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「500ダルトンの法則」とは

化粧品の世界には、「500ダルトンの法則」と呼ばれる、よく知られた考え方があります。ダルトンとは、分子の大きさ(分子量)を表す単位です。

これは、おおよそ分子量500を超えると、皮膚のバリアを通り抜けにくくなる、という経験則です。アスコルビン酸そのものの分子量は176ほどなので、この法則だけで見れば、比較的小さく、通り抜けやすい部類に入ります。

中級編①で紹介した誘導体は、アスコルビン酸に何かをくっつけている分、元のアスコルビン酸よりも分子量は大きくなります。例えば、APS(アスコルビルリン酸Na)の分子量は322.05です。特に、油になじみやすい長い脂肪酸をくっつけたVC-IPや、両親媒性のAPPSは、水溶性のAPSやAPMに比べて、くっつけているものが大きい分、分子量も大きくなる傾向にあります。APPSの分子量は560.5、VC-IPにいたっては1129.76と、500ダルトンの法則だけで見れば、本来はまったく通り抜けられないはずの大きさです。それでも配合される理由は、次の「例外」で説明する、油になじみやすい性質によるものです。

分子量の出典:APPS=PubChem「Trisodium ascorbyl palmitate phosphate」、VC-IP=富士フイルム和光純薬「テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル」製品ページ

上級編で覚えておくべきは、分子が小さいほど、この法則の上では壁を通りやすいということ。
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ただし、この法則には例外がある

500ダルトンの法則は、あくまで目安であり、絶対的なルールではありません。特に、次の2つの場合には、この法則がそのまま当てはまらないことが知られています。さらに、「③ 法則を超える大きな分子でも、肌の側の条件によって体内に入りうる」ことを示す事例も、あわせて紹介します。

例外① 油になじみやすい性質を持つ場合
角質層は、水の層と油の層が重なった構造をしていると説明しました。油になじみやすい性質(油溶性・両親媒性)を持つ分子は、分子量が500を多少超えていても、油の層を伝って通り抜けられる場合があります。これは、ビタミンCに限った話ではなく、化粧品原料全般に共通する考え方です。

例外② リポソームに包まれている場合
リポソームとは、油の膜でできた、非常に小さなカプセルのことです。私たちの肌の細胞も、同じように油の膜(細胞膜)に包まれており、リポソームは、その細胞膜とよく似た構造をした、人工の小さな袋だとイメージしてください。

このカプセル自体の分子量は、中に包まれているアスコルビン酸よりもはるかに大きいのですが、肌の細胞膜と似た性質を持っているため、カプセルごと角質層を通り抜けやすいと考えられています。つまり、「小さいから通れる」のではなく、「肌となじむ性質を持っているから通れる」という、法則とは別の仕組みで届けられているということです。

VC 油の膜(二重層)
リポソーム=油の膜でできた小さなカプセル

参考事例③ 非常に大きな分子でも、体に入ってしまうことがある(茶のしずく石鹸事件)
2010年ごろ、加水分解コムギ(グルパール19S)を配合した洗顔石鹸「茶のしずく石鹸」の使用者に、小麦アレルギーが多数発生しました。加水分解コムギはタンパク質を分解したものですが、それでも分子量は500をはるかに超える大きな分子です。500ダルトンの法則だけを見れば、肌から入るとは考えにくい大きさでした。

原因は、肌や顔まわりの粘膜(目・鼻など)から加水分解コムギが体に取り込まれ、体が「異物」と認識して抗体をつくってしまった(感作された)ことだと考えられています。その後、小麦を含む食品を食べた際にアレルギー症状が出る方もいました。どの経路でどの程度入ったのか、石鹸の洗浄成分や肌の状態がどう影響したのかなど、仕組みの詳細は今も完全には分かっていません。

この事例は石鹸であり、化粧水とは使い方も成分も異なります。また、「大きな分子が肌の奥まで届いた」という意味での有効成分の浸透ではなく、体が異物に反応してしまうアレルギーの問題です。それでも、「分子が大きいから、肌から入ることはない」とは言い切れないことを示す、重要な事例です。500ダルトンの法則はあくまで目安であり、肌の状態や使い方によっては例外が起こりうるため、使用前のパッチテストと、異常があった場合の使用中止が大切です。

上級編で覚えておくべきは、500ダルトンの法則は主に水溶性の成分に当てはまる目安であり、油溶性・両親媒性の成分やリポソームには、必ずしも当てはまらないということ。さらに、非常に大きな分子であっても、条件によっては体に取り込まれる場合があること。
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リポソームは酸化にも強いのか

ここで、少し視点を変えて、リポソームの酸化への強さについても触れておきます。

リポソームに包まれたアスコルビン酸は、周りを油の膜で囲まれているため、水に溶かしただけの無防備なアスコルビン酸よりは、酸化を遅らせられると考えられます。ただし、油の膜は、水や大きな分子は通しにくい一方で、酸素のような小さく油になじみやすい分子は、ある程度すり抜けてしまうため、酸化を完全に防げるわけではありません。

一方、APSのような誘導体は、アスコルビン酸の中で反応しやすい部分そのものに、リン酸で蓋をするという「化学的な工夫」で安定化させています。反応する場所そのものがふさがれているため、一般的には、リポソームの「物理的な工夫」よりも、酸化を防ぐ力が強いと考えられています。

もっとも、これはリポソームの膜の状態(脂質の種類や層の数、アスコルビン酸がきちんと閉じ込められているか等)によっても変わってくるため、一概には言い切れません。

上級編①のまとめ

ビタミンCがどこまで届くかは、分子の大きさだけでなく、油になじみやすいかどうか、リポソームのような特殊な運び方をしているかどうかなど、複数の要因が絡み合って決まる。

このように、実際の浸透・安定性の話は、成分ごと・処方ごとに条件が絡み合う、非常に複雑な世界です。もし気になる原料について、より詳しく知りたい場合は、AIに成分名を挙げて個別に質問してみるのもおすすめです。

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