STEP3|上級編⑤

対イオンの数はどう決まるか

上級編②で、APSの対イオンはナトリウムだとお伝えしました。実はAPSは、ナトリウムが1つではなく3つの「トリナトリウム塩」です。上級編⑤では、上級編④で学んだC2・C3の構造から、なぜ3つなのかを読み解きます。

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おさらい:対イオンとは

上級編②でご説明した通り、リン酸はマイナスの電気を帯びるため、プラスの電気を持つイオン(対イオン)と必ずペアになります。APSはナトリウムイオン(Na⁺)、APMはマグネシウムイオン(Mg²⁺)が対イオンでした。ここでは話を単純にするため「対イオンは1つ」という前提で説明していましたが、実際のところ、マイナスの電気を帯びる場所がいくつあるかによって、必要な対イオンの数は変わります。

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リン酸の水酸基が2つ、ナトリウムも2つ

APSのリン酸の部分は、正確には「リン酸モノエステル」という形(-O-PO(OH)₂)をしており、水酸基(OH)を2つ持っています。APSのようにpH9〜10という強いアルカリ性の環境では、この2つの水酸基はどちらも水素を手放してイオン化します。マイナスの電気が2か所生まれるため、それを中和するナトリウムも2つ必要になります。

リン酸 Na⁺ Na⁺ 水酸基2つ分
リン酸の2つの水酸基が、それぞれナトリウムと対になる
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実はもう1つ隠れている:C3のエンジオール

上級編④でご説明した通り、C2・C3のエンジオール構造のうち、C3の水酸基は「ビニローグ酸」としての性質を持ち、カルボン酸並みに酸性度が高い(pKaはおよそ4.2)という特徴があります。APSはC2だけをリン酸でふさいでいるため、C3の水酸基はそのまま残っています。

APSの溶液はpH9〜10という強いアルカリ性です。C3のpKaが4.2ということは、このpH帯では、C3の水酸基もほぼ完全にイオン化しているということになります。つまり、リン酸の2か所に加えて、C3にももう1か所、マイナスの電気を帯びる場所があり、そこにも3つ目のナトリウムが必要になります。

リン酸の2つ+C3のエンジオール1つ=合計3つ。これが、APS(Sodium Ascorbyl Phosphate)がトリナトリウム塩である理由です。

実際に分子式を確認すると、APSはC6H6Na3O9Pで、ナトリウムが3つ含まれています。この式からモル質量を計算すると322.05となり、APS100%単体の解説で引用しているFUJIFILM Wakoの数値(322.05)とぴったり一致します。

分子式の出典:ChemSpider「Sodium Ascorbyl Phosphate」

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APPSも同じ理由で3つ

APPS(Trisodium Ascorbyl Palmitate Phosphate)の英語名にも、すでに"Trisodium"と書かれています。APPSは、APSの構造(リン酸2つ+C3のエンジオール1つ=ナトリウム3つ)に、電気的に中立なパルミチン酸エステルを、C6にもう1本追加しただけの構造です。パルミチン酸エステルは、水酸基のような酸性の場所ではないため、イオン化もせず、ナトリウムの数にも影響しません。だからこそ、APSと同じ3つのナトリウムのまま、"Trisodium"という名前になっています。

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パルミチン酸が外れてAPSに戻るとき、ナトリウムは?

APPS100%単体の解説でご紹介した通り、APPSの鎖が切れる経路の1つに、パルミチン酸が先に切れて、残りがAPSになるパターンがあります。この時、ナトリウムはどう考えればよいでしょうか。

答えはシンプルです。もともと3つのナトリウムは、リン酸とC3のエンジオールという、パルミチン酸とは別の場所にくっついています。パルミチン酸エステルが切れて外れても、この3つのナトリウムには何の影響もありません。パルミチン酸が抜けたあとに残る「アスコルビン酸2-リン酸」の部分は、対イオンも含めて、そっくりそのままAPSと同じ状態になっている、ということになります。

上級編⑤のまとめ

APS・APPSがトリナトリウム塩なのは、リン酸の2つの水酸基に加えて、C3のエンジオール(上級編④で学んだ「ビニローグ酸」の性質を持つ、酸性度の高い水酸基)も、強いアルカリ性の溶液中ではイオン化しているため。パルミチン酸エステルは電気的に中立なので、APPSからパルミチン酸が外れても、3つのナトリウムには影響がなく、残った部分はそのままAPSと同じ状態になる。

これで基礎編・中級編・上級編のシリーズは一区切りです。

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